Adobe Reader
※PDFファイルをご覧になるためにはAdobe Reader(無料)が必要です。
お持ちでない方は上記バナーをクリックしてダウンロードしてください。

ITPS REPORT ABSTRACT <No.0601>

AUG.2005 総合的交通施策としてのモビリティ・マネジメントの実務的検討
―コミュニティバス利用促進の事例研究―

藤井 聡 客員研究員

 

 我が国の渋滞問題や環境問題に対して,これまで道路新設や拡幅等,交通容量の拡大施策や,交通需要マネジメント(Transportation Demand Management: TDM)をはじめとしたソフト施策など,様々な試みがなされてきた.渋滞問題や環境問題は一般に,社会的ジレンマという枠組みで捉えられ,その解決策として,法的な規制等による構造的方略と,個人の心理要因に働きかけることで自発的な行動変容を期待する心理的方略とがあることが知られている(藤井,2003).社会問題を根本的に解決するためにはこのどちらも必要であると考えられるのだが,これまで行われてきた取り組みの大半は構造的方略によるものであった.そのため,その成果は,限られたものであったのが現状であるとも考えられる.

 こういった状況の中で,もう一方の心理的方略において,交通行動をひとりひとりの移動(モビリティ)として捉え,人々の心理要因に働きかけるという新しいタイプの交通施策が着目されつつある.この施策は,欧州において広く用いられた用語であるモビリティ・マネジメント(mobility management: MM)と呼ばれ,「ひとり一人のモビリティ(移動)が,社会的にも個人的にも望ましい方向に自発的に変化することを促す,コミュニケーションを中心とした交通政策」と定義されている(土木学会,2005).この施策の最も大きな特徴は,学術的な知見をも活用した洗練されたコミュニケーションを図る,という点であり,我が国では2000年頃から実験的な取り組みとして進められている.

 ところで,過度な自動車利用が引き起こす問題として,渋滞問題や環境問題とともに重要視しなければならないのが,公共交通のサービス水準の低下である.特に地方部においては,人々の生活が,自動車のみに依存したライフスタイルに変わっていくにつれ,バスや鉄道の経営が圧迫され,事業の廃止まで追い込まれる場合もある.そして,その流れがさらなる公共交通の利用者離れを引き起こすという悪循環を生み出し,大きな社会問題に発展している.一方,都心部においては,人々の生活が自動車を利用した買い物や娯楽等に傾き,駐車場のある郊外の大規模な商業施設の立地が促進され,結果として,公共交通機関や徒歩で行けるような中心市街地の商店街はますます衰退していくという事態が招かれている.

 このような現象を解消するためにも,上述のMMが大きな効果をもたらすと期待できる.特に,公共交通の利用促進においては,コミュニケーションの対象を世帯や個人とするTFP(トラベル・フィードバック・プログラム:Travel Feedback Program)が有効であり,その効果は国内外のいくつかの事例において実証されている.

 しかし,特定路線の利用促進において,より効果的なTFPを行うための検討事項はまだ残されているといえる.例えば,ある地域において人々が公共交通機関を利用しない理由の一つに,その路線のサービスが不十分であるという点が挙げられることは多々あるだろう.しかし,限られた行政の財源で全ての人々の期待に応え得るサービスを行うことは困難であることもまた多い.そのような場合には,サービス改善努力を行っているという誠実な態度を表明するとともに,人々から寄せられた意見や要望を,実際のサービス改善に役立てることが極めて重要になるのではないだろうか.こうした可能性は,すでに「モビリティ・マネジメントの手引き」(土木学会,2005)にて指摘されているところではあるが,まだ実証されていないのが実状である.

 そこで,本研究では,特定バス路線の利用促進プログラムとしてのTFPを,その路線沿線に居住する人々に対して行うこととする.そして,その人々から特定バス路線に関する意見・要望を集め,寄せられた意見・要望に対して丁寧かつ迅速に対応することの有効性を検証することを目的としている.

 

戻る